寝待の文箱

繭期な話とか、そうでない話とか。

2015版TRUMP雑感(ラファエロ、アンジェリコ様)(再掲)


※今回のTRUMP以外はまだ見てません。(2015年12月10日現在)
 キャラクターと関係性についての雑感。
※観劇回は、21日T、26日M、28日T、29日R。
 Wアンジェリコ様に正気を失って、大阪千秋楽にも行くことになりました。

 

ラファエロは兄としての仕事に殉じているように見えた。まさに高潔で、誇り高く、孤独。とても理想的で美しい存在だった。弟のことはデリコ家の長男として監督しなければならないと、どちらかというと義務でやっているように見えたかな。ラファエロ自身も弟のことは兄として愛していただろうけど、それよりもダリちゃんにとってウルが大事だから守らなくてはならなかったように見える。本人は無自覚だろうけど。ダリちゃんってウルにあんな物言いをするくせにウルのこと大事だからずるい。Tラファエロはあまり愛されている自信なかったんだろうなという印象を受けたし、だからこそあんなに必死に兄としての仕事を全うしようとした。どうしようもなく切ない。
Tはソフィからラファエロへの憧れもとても美しく見えた。ラファエロ自身はいろいろ必死だったと私は思うけれど、それはまったく表に出していなかったので、憧れるのも当然だし、あの美少年が心の底からああ在りたいと焦がれている様子はうつくしいと言うほかない。

Rラファエロは、Tラファエロとは逆に、弟が大好きで大好きで仕方なかったんだろうと思う。弟を守るためなら父すら殺して見せそうな子だった。本気でウルのことを愛しているように見えて、なんだかウルが生まれたときのことを考えてしまった。きっと、ウルが生まれたときはデリコ家は大混乱だっただろうし、ウルは生まれたときから、周囲からは、不義の子、汚らわしいダンピールとして見られていただろうと思う。そんな中で、ウルをただのウルとして見つけたのがラファエロだったのではないか。生まれたばかりのウルの愛らしさに感動するラファエロが想像できる。きっとウルの愛らしさはラファエロだけの宝物だったのだ。そう思えるようなラファエロだった。お兄ちゃんかわいい。
Rのソフィからラファエロへの憧れは、自分もあんな風に身内から愛されてみたいというような憧れだったのかなと思う。身寄りがなく、自我もまだ未確立の不安定な時期に、誰かの無条件の愛情を受けたいと夢を見ているような、そんな雰囲気があった。Rウルは、家族から愛されているという意味では足元はしっかりしていたのかもしれない。差し迫った死への恐怖を抱えているという一点を除いては、基本的には安定した子だったのかも。

Mで兄弟の組み合わせが入れ替わるのは、ソフィにとっての夢が叶えられたような気がして、ソフィ良かったねぇという気持ちに。東京Mの田村ラファエロと早乙女ウルの組み合わせは、外見は似てはいないけれど、どちらも情念深い性質があるようなのが、似ているなあと思えました。そしてちっちゃいお兄ちゃんが体格のいい弟、しかも母性本能擽るタイプの、を必死で守っている様子がもうかわいくてかわいくて、この組み合わせ一番好きです……。最強にかわいい……。大阪Mは観ていませんが、大変知性的な兄弟だったようで、観に行きたかった……。行けるものなら行ってたけどね、人間として守るものは守らなくてはね……。

Tアンジェリコ様。女王様。上から目線のちっちゃい女王様。純血サーの姫。
Rアンジェリコ様。帝王の風格を持ったガキ大将。かわいい。
アンジェリコ様に関しては、あんまり観ながら考えられなかったので、設定の面から考えたい。
今回のアンジェリコ様の像は、完全にラファエロと対の存在となっているように思われた。
ソフィとウルが思春期の親友関係として成功ルートに進んでいた(途中で潰されてしまうけど)のに対して、ラファエロとアンジェリコは、親友関係を築けなかった二人という印象を私は受けた。
私は、このTRUMPという話に関しては、普通の思春期の少年たちを描いたものだと思っているし、思春期の少年にとって唯一無二の特別な親友というものは、希求して然るべきものだと考えている。「親友」という書き方を敢えてするけど、その内実は、友情とも恋ともつかない、まだ未分化な愛情なのだと思う。

おそらく思春期以前から二人はお互いに特別な存在として意識していたけれど、成長して更に親密さを増そうという段階に入ったときに、ウルという秘密が二人の仲を引き裂いたのだろう。それはウル自体が、というより、ラファエロが、アンジェリコには打ち明けられない秘密としてウルを守らなくてはならなかったということ。アンジェリコが深く相互理解を求めたとき、ラファエロはそれを拒否しなければならなかった。
秘密の共有がなければ親友たりえないというのは乱暴な論ではあると思うのだけれど、やはりラファエロという人間を理解するうえで、デリコ家がウルという秘密を抱え、ラファエロはそれを守らなくてはならない立場にいる、という事実は重要なものだろう。


大阪千秋楽(T)感想
あの、あの、ラファエロと、アンジェリコ様、やばかったです。というかラファエロがほんとにやばかった。あの人みんなのことを愛してた。
ダリちゃんのことも愛していたし、ウルのことも愛していたし、アンジェリコのことも愛したかった。だけどうまくその愛を伝えられなかったし、伝えてもらえなかった。全部すれ違っていた。
ラファエロがダリちゃん大好きなのは知ってたけど、ウルのことも大好きなんだなと思ったのは、特に、ダリちゃん登場シーン前にウルを引きずっていくところのお説教モードが、自分が妹にお説教してるのと全く同じように見えたからです(超個人的)。かわいくてかわいくて心配だから、口出したくなっちゃうよね。もちろんラファエロの価値観が一方的なものであり、彼自身も親に認められたいという気持ちが強かったというのはあるけれども、それでも彼は彼なりにウルがきちんとした人になってほしいと、心配していたんじゃないかなって思えました。
それから、アンジェリコとの関係はすごかった。今まで気づいてなかったけど、アンジェリコと一度も目を合わせないのね。
アンジェリコに見られているとき、ラファエロは目を逸らしている。アンジェリコがラファエロ以外のところを見ているとき、ラファエロはアンジェリコのことを見ている。
ラファエロは後ろめたかったんですね。アンジェリコからの気持ちに応えられないことが。
ラファエロはアンジェリコと友達でいたかった。アンジェリコもラファエロと親友になりたかった。しかしラファエロはどうしてもアンジェリコには打ち明けられない秘密を抱えてしまった。デリコ家がフラ家にどうしても隠さなければならない秘密を。
アンジェリコはラファエロに親密さを求めたとき、ラファエロは秘密を抱えてアンジェリコに背を向けた。裏切られたと思うだろうね。それでもひたすらラファエロの目を自分に向けようとがんばっていたんだ。やり方は間違えたけれども。

ウルはダンピールである自分の死を怖れていた。ラファエロはダンピールである弟の死を怖れていた。
二人はその死の可能性について、きっと話したりすることはなかっただろう。目を背けていたい問題だから。
その目を背けていたい問題を可視化させる存在がある日クランに現れた。ソフィというダンピールが。
ウルは自分からソフィに近づいていった。ダンピールとして差別されるソフィを守ることは自分自身を守ることにもなった。
ウルはソフィと親友関係を築くことで、死の運命への恐怖を紛らわすことができたのではないか。ダンピールとして差別されるソフィを守り、TRUMPの存在を夢想し、共に繭期を越える夢を語った。

それに対し、ラファエロは、ただ理不尽な暴力を嫌う公正さの仮面を被ってしかソフィに接することができなかった。
ラファエロにとって、ソフィ・アンダーソンは、弟と同種の存在であるとともに、弟の死を常に目の前に突き付けてくる存在であったのではないか。
弟と同種の存在であるソフィが迫害されることに対しては、弟が迫害されるのと同じ怒りと悲しみを覚え、しかしソフィと相対すると、それは弟の死を突き付けてくる。
あのクランの中で一番揺らがないように見えた彼は、実は一番大きな悲しみと恐怖を抱えていたのではないか。
ソフィが弟を惑わせると、そう思い込んだけれども、自分自身が一番ソフィの存在に恐怖を覚えていた。だから彼はソフィを手にかけるしかなかったのだ。
ラファエロにもしも秘密を打ち明ける相手ができたとしたら、それはアンジェリコだったのだろう。しかし、アンジェリコは、ダンピールであるソフィを迫害した。
もしかしたら、アンジェリコはソフィがラファエロを脅かす存在であることに、無意識のうちに気づいていたのかもしれない。アンジェリコはラファエロを脅かすソフィを迫害し、ラファエロの大事な秘密であるウルをソフィから遠ざけ、手に入れようとした。
しかしダンピールであるソフィを迫害することもまた、ラファエロにとって禁忌であり、大事なウルを迫害するのも同じことだった。
アンジェリコは、ダンピールであるソフィを迫害することで、ラファエロの秘密を共有できる可能性を自ら消してしまったのだ。
こうして、アンジェリコがラファエロを求めれば求めるほど二人の断絶は深まっていき、ラファエロには孤独を守る道しかなくなっていった。
というのが、二人が悲劇の引き金を引いてしまった顛末なのではないだろうか。

(初出:Privatter 2015/12/10)