寝待の文箱

繭期な話とか、そうでない話とか。

「臓器くんコンニチワ」第1回 感想


「臓器くんコンニチワ」第1回、とても好きでした。

夢からはじまる短編小説集 「臓器くんコンニチワ」第1回

好きが多すぎてまとまらないので、好きなところを箇条書きにしました。長いひとりごとだけど、読んでもらえたらうれしいです。みんなの感想も聞きたいな。

一つ、文体が好き。理由はよくわからないけど、一文一文が愛しい。行間に感じる空気と色も好き。

二つ、「対物性愛」のところ。私は「重要なのはその気持ちに従うこと」を地で行くタイプなので、これを含む4行がうれしくて大事でしかたない。もし今後の展開で否定されたとしても、ここで言葉にされていることがうれしい。
「励まされたような気持ち」のところも好き。わかる。知らない誰かのスタンダードではない恋に励まされて息ができたときがある。
それから、「随分と真っ当に思えた」なんて、少し傲慢な物言いも好き。恋ってそういうもの。

三つ、恋の生まれた場所。白い天井とカーテン、柵のあるベット、リノリウムの床。そんな無機質なものに囲まれた場所で、生き物は自分だけの空間で、自分を生かしてくれる「他者」と出会った。とてもロマンチックだと思いませんか。

四つ、思考実験として。自律神経支配の臓器を、大脳にとっての他者と認識しうること。自分の中の「他者」の線引きがどこにあるのか、新たな視点をもらえたのが面白かった。
もともと私は自分と同一の存在には惹かれないタイプの人間です。自分のことは大好きだけど、恋には絶対ならないな。それを意識したのは、Equalの配信 *1 を見たときでした。
それから、他のとある作品 *2 で「無意識」が人の形をとっていたときは、侵犯されているような拒否感を覚えました。無意識は大脳の領域であり、自分の意識と競合するから。自分を明け渡すのは絶対に嫌だ。
でも、自分の意思で動かせない心臓は、恋の相手と言われてすんなり受け入れられる。どうやら私は脳幹部を他者だと思えるらしい。こんなこと考えたことなかった!すごい!面白い!

五つ、臓器擬人化。もともと小さい頃から風邪を引いたら免疫戦隊物の妄想をしていたタイプ(特にマクロファージに燃える)なので嫌いなわけがない。こういうとこはこの機能とかこの特徴からきてるのかなーって考えるの楽しい。私が一番テンション上がったのは肝臓と胆嚢の打ち合わせ。ジェネラリストとスペシャリストが協力して仕事してる感じ、かっこよくない?

六つ、「皮膚と、筋肉と、胸骨と、肋骨の境界に隔てられたふたり」という表現。ひとつひとつ、剥いていったら近づける、そんな生々しさと、ひとつひとつ、距離を数えるようなさみしさを感じさせるのが好き。「胸を切り裂いてでも」という衝動も、私は臓器に恋をしたことはないけれど、似たような衝動は感じたことがある気がする。私は、恋がプラトニックでいられるかの境界を、触覚を求めるかどうかだと思っているので、触覚を連想させるこれらの表現に、彼女の切実さが胸に迫るように感じられて好き。一つの体にいるのに一つになれないって、これ以上どうしたらいいんだろう。

七つ、人の形をとってしまうこと。私は物に恋するとき、大抵はそのかたちに惹かれているので、そのかたちをそのまま愛せないことを少しかなしく思ってしまう。彼女には形は関係ないのかもしれないけど。そんなことがなんだか切なくて沁みる。

八つ、言葉を交わせてしまうこと。相手不在の恋は発展はしないが安定していて楽なのに、彼女はそうではない道を選ぶのかしら。どきどきしてしまう。正直不安だ。全部が彼女の夢ではありませんように。何かたしかなものを見つけられますように。

好きなところ、八つありました。他に気づいたことがあれば足すかも。
この先がどうなろうと、私はここまでのお話が好き。この先を愛せるかはわからないけど、続きを楽しみにしています。

*1:赤×坂版を見ました。

*2:One one Oneの『天才作曲家』という作品です。

念のため、どちらも好きな作品です。考えさせてくれる作品は好きだ。

2015版TRUMP雑感(ラファエロ、アンジェリコ様)(再掲)


※今回のTRUMP以外はまだ見てません。(2015年12月10日現在)
 キャラクターと関係性についての雑感。
※観劇回は、21日T、26日M、28日T、29日R。
 Wアンジェリコ様に正気を失って、大阪千秋楽にも行くことになりました。

 

ラファエロは兄としての仕事に殉じているように見えた。まさに高潔で、誇り高く、孤独。とても理想的で美しい存在だった。弟のことはデリコ家の長男として監督しなければならないと、どちらかというと義務でやっているように見えたかな。ラファエロ自身も弟のことは兄として愛していただろうけど、それよりもダリちゃんにとってウルが大事だから守らなくてはならなかったように見える。本人は無自覚だろうけど。ダリちゃんってウルにあんな物言いをするくせにウルのこと大事だからずるい。Tラファエロはあまり愛されている自信なかったんだろうなという印象を受けたし、だからこそあんなに必死に兄としての仕事を全うしようとした。どうしようもなく切ない。
Tはソフィからラファエロへの憧れもとても美しく見えた。ラファエロ自身はいろいろ必死だったと私は思うけれど、それはまったく表に出していなかったので、憧れるのも当然だし、あの美少年が心の底からああ在りたいと焦がれている様子はうつくしいと言うほかない。

Rラファエロは、Tラファエロとは逆に、弟が大好きで大好きで仕方なかったんだろうと思う。弟を守るためなら父すら殺して見せそうな子だった。本気でウルのことを愛しているように見えて、なんだかウルが生まれたときのことを考えてしまった。きっと、ウルが生まれたときはデリコ家は大混乱だっただろうし、ウルは生まれたときから、周囲からは、不義の子、汚らわしいダンピールとして見られていただろうと思う。そんな中で、ウルをただのウルとして見つけたのがラファエロだったのではないか。生まれたばかりのウルの愛らしさに感動するラファエロが想像できる。きっとウルの愛らしさはラファエロだけの宝物だったのだ。そう思えるようなラファエロだった。お兄ちゃんかわいい。
Rのソフィからラファエロへの憧れは、自分もあんな風に身内から愛されてみたいというような憧れだったのかなと思う。身寄りがなく、自我もまだ未確立の不安定な時期に、誰かの無条件の愛情を受けたいと夢を見ているような、そんな雰囲気があった。Rウルは、家族から愛されているという意味では足元はしっかりしていたのかもしれない。差し迫った死への恐怖を抱えているという一点を除いては、基本的には安定した子だったのかも。

Mで兄弟の組み合わせが入れ替わるのは、ソフィにとっての夢が叶えられたような気がして、ソフィ良かったねぇという気持ちに。東京Mの田村ラファエロと早乙女ウルの組み合わせは、外見は似てはいないけれど、どちらも情念深い性質があるようなのが、似ているなあと思えました。そしてちっちゃいお兄ちゃんが体格のいい弟、しかも母性本能擽るタイプの、を必死で守っている様子がもうかわいくてかわいくて、この組み合わせ一番好きです……。最強にかわいい……。大阪Mは観ていませんが、大変知性的な兄弟だったようで、観に行きたかった……。行けるものなら行ってたけどね、人間として守るものは守らなくてはね……。

Tアンジェリコ様。女王様。上から目線のちっちゃい女王様。純血サーの姫。
Rアンジェリコ様。帝王の風格を持ったガキ大将。かわいい。
アンジェリコ様に関しては、あんまり観ながら考えられなかったので、設定の面から考えたい。
今回のアンジェリコ様の像は、完全にラファエロと対の存在となっているように思われた。
ソフィとウルが思春期の親友関係として成功ルートに進んでいた(途中で潰されてしまうけど)のに対して、ラファエロとアンジェリコは、親友関係を築けなかった二人という印象を私は受けた。
私は、このTRUMPという話に関しては、普通の思春期の少年たちを描いたものだと思っているし、思春期の少年にとって唯一無二の特別な親友というものは、希求して然るべきものだと考えている。「親友」という書き方を敢えてするけど、その内実は、友情とも恋ともつかない、まだ未分化な愛情なのだと思う。

おそらく思春期以前から二人はお互いに特別な存在として意識していたけれど、成長して更に親密さを増そうという段階に入ったときに、ウルという秘密が二人の仲を引き裂いたのだろう。それはウル自体が、というより、ラファエロが、アンジェリコには打ち明けられない秘密としてウルを守らなくてはならなかったということ。アンジェリコが深く相互理解を求めたとき、ラファエロはそれを拒否しなければならなかった。
秘密の共有がなければ親友たりえないというのは乱暴な論ではあると思うのだけれど、やはりラファエロという人間を理解するうえで、デリコ家がウルという秘密を抱え、ラファエロはそれを守らなくてはならない立場にいる、という事実は重要なものだろう。


大阪千秋楽(T)感想
あの、あの、ラファエロと、アンジェリコ様、やばかったです。というかラファエロがほんとにやばかった。あの人みんなのことを愛してた。
ダリちゃんのことも愛していたし、ウルのことも愛していたし、アンジェリコのことも愛したかった。だけどうまくその愛を伝えられなかったし、伝えてもらえなかった。全部すれ違っていた。
ラファエロがダリちゃん大好きなのは知ってたけど、ウルのことも大好きなんだなと思ったのは、特に、ダリちゃん登場シーン前にウルを引きずっていくところのお説教モードが、自分が妹にお説教してるのと全く同じように見えたからです(超個人的)。かわいくてかわいくて心配だから、口出したくなっちゃうよね。もちろんラファエロの価値観が一方的なものであり、彼自身も親に認められたいという気持ちが強かったというのはあるけれども、それでも彼は彼なりにウルがきちんとした人になってほしいと、心配していたんじゃないかなって思えました。
それから、アンジェリコとの関係はすごかった。今まで気づいてなかったけど、アンジェリコと一度も目を合わせないのね。
アンジェリコに見られているとき、ラファエロは目を逸らしている。アンジェリコがラファエロ以外のところを見ているとき、ラファエロはアンジェリコのことを見ている。
ラファエロは後ろめたかったんですね。アンジェリコからの気持ちに応えられないことが。
ラファエロはアンジェリコと友達でいたかった。アンジェリコもラファエロと親友になりたかった。しかしラファエロはどうしてもアンジェリコには打ち明けられない秘密を抱えてしまった。デリコ家がフラ家にどうしても隠さなければならない秘密を。
アンジェリコはラファエロに親密さを求めたとき、ラファエロは秘密を抱えてアンジェリコに背を向けた。裏切られたと思うだろうね。それでもひたすらラファエロの目を自分に向けようとがんばっていたんだ。やり方は間違えたけれども。

ウルはダンピールである自分の死を怖れていた。ラファエロはダンピールである弟の死を怖れていた。
二人はその死の可能性について、きっと話したりすることはなかっただろう。目を背けていたい問題だから。
その目を背けていたい問題を可視化させる存在がある日クランに現れた。ソフィというダンピールが。
ウルは自分からソフィに近づいていった。ダンピールとして差別されるソフィを守ることは自分自身を守ることにもなった。
ウルはソフィと親友関係を築くことで、死の運命への恐怖を紛らわすことができたのではないか。ダンピールとして差別されるソフィを守り、TRUMPの存在を夢想し、共に繭期を越える夢を語った。

それに対し、ラファエロは、ただ理不尽な暴力を嫌う公正さの仮面を被ってしかソフィに接することができなかった。
ラファエロにとって、ソフィ・アンダーソンは、弟と同種の存在であるとともに、弟の死を常に目の前に突き付けてくる存在であったのではないか。
弟と同種の存在であるソフィが迫害されることに対しては、弟が迫害されるのと同じ怒りと悲しみを覚え、しかしソフィと相対すると、それは弟の死を突き付けてくる。
あのクランの中で一番揺らがないように見えた彼は、実は一番大きな悲しみと恐怖を抱えていたのではないか。
ソフィが弟を惑わせると、そう思い込んだけれども、自分自身が一番ソフィの存在に恐怖を覚えていた。だから彼はソフィを手にかけるしかなかったのだ。
ラファエロにもしも秘密を打ち明ける相手ができたとしたら、それはアンジェリコだったのだろう。しかし、アンジェリコは、ダンピールであるソフィを迫害した。
もしかしたら、アンジェリコはソフィがラファエロを脅かす存在であることに、無意識のうちに気づいていたのかもしれない。アンジェリコはラファエロを脅かすソフィを迫害し、ラファエロの大事な秘密であるウルをソフィから遠ざけ、手に入れようとした。
しかしダンピールであるソフィを迫害することもまた、ラファエロにとって禁忌であり、大事なウルを迫害するのも同じことだった。
アンジェリコは、ダンピールであるソフィを迫害することで、ラファエロの秘密を共有できる可能性を自ら消してしまったのだ。
こうして、アンジェリコがラファエロを求めれば求めるほど二人の断絶は深まっていき、ラファエロには孤独を守る道しかなくなっていった。
というのが、二人が悲劇の引き金を引いてしまった顛末なのではないだろうか。

(初出:Privatter 2015/12/10)

TRUMP2015雑感(ソフィ、ウル)(再掲)


※今回のTRUMP以外はまだ見てません。キャラクターと関係性についての雑感。

※観劇回は、21日T、26日M、28日T、29日R。
 Wアンジェリコ様に正気を失って、大阪千秋楽にも行くことになりました。
※大阪千秋楽分追記と、加筆修正しました。(2015/12/16)

 

Tソフィは知的で大人びた風貌。教室の喧噪の中で一人、その周りだけ静かな美少年の優等生っていう第一印象。Tウルが近づいていきたくなる気持ちがよくわかる。自分の置かれた運命を受け入れつつも、他人からの侮辱には屈しない。まさに高潔。それでも、中身は普通の男の子って感じがまたいい。迷うこともあるし、友人との付き合いに悩んだりもする。かわいい。

Tウルは貴族のドラ息子って感じ。かわいい。ものすごくかわいい。守ってあげたい。Tソフィがすっきりとした美少年なのに対し、Tウルはお顔も髪型も上品な派手さがあって、2人のバランスがとてもいい。体格が良いところもかわいい。今はまだ未熟だけど、大人になったらさぞかし立派な風貌になるんだろうなと予感させる。最高。ほんと、貴族のドラ息子って雰囲気なのに、読書家なギャップはやばい。あなたそれ狙ってやってんの?天然なんだろうなあ、ずるい。派手で社交的な印象なのに、実はとても繊細なところがあるという性質は、やっぱり人を惹きつけるものだと思います。

TソフィとTウルは、本当に対照的で、二人が惹かれ合うのがとてもよくわかる。すごく理想的なうつくしい関係で、きっとこのまま誰にも邪魔されなかったら、いつかウルはソフィにダンピールであることを打ち明けて、自分の運命を受け入れて死んでいくことができたのではなかろうかと思ってしまう。結局は悲劇的な最期を迎えることになってしまうけど、ウルがあんなに自他の境界を乱すようなセリフを吐いているにも関わらず、この二人はお互いをお互いとして尊重しているように見えるんだよな。ウルはソフィになりたがったし、ソフィにウルであってほしがった、というのは、自分自身はソフィのように強く生きたいし、ソフィにはもっと弱さを見せてほしかったのだろう。Tソフィは弱さを感じさせないけれど、生い立ちをぽろっと話してしまったときのように、弱さがないわけではなく、自覚していないだけなんだろうと思う。ウルはもしかしたらそれに気がついていて、そういうソフィの弱いところを受け入れたかったのではないか、なんて言うのはちょっと妄想の域に入っている気もするけど、ウルがあんなに取り乱してソフィに酷いことをしてさえ、二人は健全な関係に見える。お互いがお互いをとても大切な友人だと思っている。ただただうつくしい純粋な友情。

私は、ソフィとウルの関係が、思春期に誰しもが欲する、お互いを唯一とする親友関係だと思っていて、その親友関係の成立にはお互いの秘密を打ち明けるという行為が重要な意味を持つと考えているのですが、Tの二人に関しては、最後の最後にその親友関係は成立したと思っています。そう思えるほど理想的な関係だった。TソフィはTウルの像を理想として、大切な友人としてずっと心のうちに抱えて生きていくんだろうなと思います。

Tが美しく理想的な関係であったのに対し、Rはもっと現実的な関係だと思います。
Rソフィは、凡人に見える。それが悪いと言いたいわけじゃなくて、凡人ぽいからこそすごく現実にいそうに見えるんだ。凡人だけど、少し浮いた存在で、少し厭世的で、少し気になる存在。その辺の教室にすごくいそう。そして、とても迷子な印象も強かった。自分の出自と将来に対してのぼんやりとした不安感に、明確に向き合うでもなく、迷いを迷いとして抱えている。それが、周りから少し浮いた印象を与えて、きっとそういうところにウルは惹かれた。

Rウルは、三枚目って感じの雰囲気を持っている。あんな美少年がああいうアプローチしてくると思ってなかったのですごく新鮮だったし、やっぱりこっちもすごい現実感ある。周囲が険悪なムードになると、おどけて見せて空気を変えようとする。きっと優しい子だからあんな風に振る舞うんでしょうね。そして、こちらも実は繊細というのがギャップとしてとても良い。Tとは違って、ダンピールを差別する周りの友人たちともうまくやれているのに、ソフィに惹かれていって、ソフィにだけは自分の繊細な部分を見せていく。Tウルにはソフィしかいなかったけれど、Rウルにはソフィ以外もいたのにソフィしか選ばなかった。ウルにとってのソフィという存在の特別さがより際立って見えた気がします。

Rのソフィとウルはどちらも迷いの中にいて、まさに思春期という感じがすごくする。理想的でうつくしくて舞台映えするのはTの二人だけど、Rの二人は本当に少年らしい少年で、どちらもとても好き。
Rの二人は現実感があるゆえに、お互いに対する執着がTよりももっとあるように見えた。Tのように対称的で凸凹がぴったりはまるような二人ではなく、曖昧な不安を抱えた者同士、それこそ一体化してしまいたいような気持ちを抱いていたのではなかろうかと。Tの「生まれ変わりたい」は文字通りだけれど、Rは、本当は魂が混ざり合えたらいいと思っているけどそれができないから生まれ変わりたいのだと言っているように聞こえた。だから、最後のRソフィは、ウルの魂を半分抱えているように見えたんだな。思春期の恋とも友情ともつかない未分化な愛情が、まだ全然整理できていないままそこにあって、でもそれはとても深いもので、だからそれを無理やり断絶させられて生きていくのはとてもつらいことだと思えた。ウルが死んだとき、ソフィの半身も一緒に持っていかれたし、それを埋めるためにソフィはウルの魂を半分抱えていった。そんな風に思わせる、情念的なソフィとウルでした。
もっと時間があったなら、もっといろいろぶつかり合ったりしながら、それぞれ自我を確立して、思春期を抜けていって、良い親友関係を築けたのかなあと思います。まあ、繭期は越えられなかったのだろうけど……。

高杉真宙くんと早乙女友貴くんには本当に美しいものを見せてもらえて感謝してます。ほんとにすごい良かった。この二人のソフィとウルを見られて良かった。おばちゃんにこんなきれいなものを見せてくれてありがとうね……という気持ち。今後も健やかに育っていってほしいなあと思いました。

大阪千秋楽追記
東京ではあまり意識してなくて気づかなかったんだけど、最初の地下書庫のシーン、ものすごくきれいですね。
ソフィがウルに、養護院の話をする。今まで誰にも話さなかった自分の生い立ちを開示する。
それに対し、ウルはTRUMPの話をする。秘密にすることを強いられている自分の生い立ちを開示しようとする。死への恐怖の共有を求める。
アンジェリコたちが乱入してくる前の最後のセリフで、ウルが、おれは、おれは、って言うのに続く言葉は、「ダンピールなんだ」だったんですね。結局消え入るような声で、あいつらとは違う、という表現に逃げてしまったけれど。
大阪楽のあのセリフは本当に痛々しくてつらかった。本当は打ち明けてしまいたかったんだね。
きっと、ソフィが死への恐怖をひとかけらでも見せていたら、あの地下書庫で、ソフィだけに打ち明けられたのだろうと思います。その後も、ダンピールであることが晒された後も、ずっとウルはソフィに死への恐怖を分かち合うことを求めていた。
でも、ソフィにとってまだ死は差し迫った問題ではなかったんだ。もともとあまり多くのものを持っていなくて、抱えようともしていなくて、あんなに明白に友人であるウルのことすら友達じゃないと言えてしまうほど、自分の大事なものに無自覚なソフィが、死による喪失に恐怖を抱くにはまだ時間が必要だった。
ラファエロとアンジェリコが引き金を引かなければ、まだ二人には時間があったはずで、時間があればきっとあの地下書庫で二人だけで秘密を共有できていただろうと思う。時間だけが足りなかった。
それでも、最後の最後にソフィはウルの死に恐怖した。だからウルの気持ちは報われたのだと思いたい。
うつくしい二人だった。

(初出:Privater 2015/12/04)